田岡 敬

これがD2Cビジネスのスタンダードになる。LTV評価に基づく広告の投資判断が不可欠である理由

田岡 敬様

田岡 敬様

  • EC
  • LTV(顧客生涯価値)最大化
  • ROI(費用対効果)・ROAS改善
  • BtoC

市場の拡大以上に競争が激化し、新規顧客の獲得コストが跳ね上がっているD2C市場。プレイヤーも多様化しており、安定的な事業成長は非常に難しいものとなっている。こうした状況下にあるD2C事業者を広告投資意思決定の面からサポートしようと意気込むのが、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」を運営するイルグルムだ。D2Cの領域で豊富な経験と実績を持つ、日立グローバルライフソリューションズの田岡氏と共同開発したアドエビスの新機能「LTVForecast」を通して、D2CにおけるLTV評価による広告投資判断の民主化を狙う。本稿では、なぜD2C事業の安定的な成長にLTV評価が必要なのか、その考え方を丁寧に紐解いていく。

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競争が激化するD2C市場、生き残る道は?

MarkeZine編集部
(以下、MZ編集部):

はじめに、これまでのご経歴と現在携わられている業務について教えていただけますか?

(左)日立グローバルライフソリューションズ株式会社 常務取締役 CDO 兼 Chief Lumada Business Officer 田岡敬氏
(右)株式会社イルグルム 執行役員 CMO 吉本啓顕
吉本:

イルグルム CMOの吉本です。私は2009年にイルグルムに入社し、カートシステム「EC-CUBE」(2019年に完全子会社化)の企画開発やプロモーションなどに携わりました。その後、アドエビスチームに加わり、現在は事業責任者を務めています。

田岡:

日立グローバルライフソリューションズの田岡です。私は常務取締役CDOとして、新規事業創出・マーケティング・ITの3つの領域を担当しています。経歴としましては、一部省略しますが、化粧品の通販会社JIMOSで代表取締役を務めた後、ニトリホールディングスで上席執行役員としてECを含むデジタル戦略の全般を担当、化粧品会社のエトヴォスで取締役COOを務め、今に至ります。

MZ:

2021年5月より、株式会社北の達人コーポレーションの社外取締役にも就任されたとのことで、田岡さんは長くD2Cに携わってこられたんですね。

田岡:

そうですね。長年D2C領域にいますが、私はずっと“D2C事業の安定的な成長には、LTV評価による広告投資意思決定が必要不可欠である”と考え、実践してきました。レコメンドエンジンを搭載していないECがないように、D2CにとってLTV評価はマストであり、同じくらい重要であると考えています。

MZ:

なるほど。ECにおけるレコメンドエンジンというと、重要度がよくわかります。なぜD2CにはLTV評価が必要なのでしょうか?

田岡:

まずは、D2C市場の状況から押さえていきましょう。現在D2Cの市場は右肩上がりで成長を続けていますが、参入企業も増え、競争はかなり激化しています。15~20年前は独立系の通販企業が多くを占めていましたが、大手企業が続々と参入し始め、近年ではVC(ベンチャーキャピタル)が背後についたベンチャー企業も増えてきました。

大企業は資金があっても意思決定が遅いケースがありますが、意思決定が早く資金も潤沢にあるベンチャー企業が強力なプレイヤーとして存在感を強めているので、より競争は激しくなっています。

加えて、薬機法の改正による広告表現の規制も市場にインパクトを与えています。これにより新規顧客獲得のコストが非常に上がっているのです。15年ほど前は競争はここまで激しくなかったのですが、それは遠い過去のものになりました。

吉本:

ベンダーの立場としても、D2C市場の競争が激化していることは強く感じています。新規顧客の獲得で頭を悩ませている企業は非常に多いですね。

田岡:

こうした厳しい状況だからこそ、LTV評価を取り入れる必要性は増しています。CPAばかりを追っていると、本質的な意思決定ができません。

なぜD2CにLTV評価が必要なのか

田岡:

LTV評価が必要である理由を、新規顧客になってからの経過時間と1人あたりのライフタイムバリューから考えてみましょう。

大昔になりますが、新規顧客を効率よく獲得できたため、広告費は一発回収、スタート時点でいきなり黒字化という時代もありました。実際に私が社長を務めていたJIMOSも、創業期は今とは比べ物にならないほど広告投資効率が良かったそうで、リピート率が低い、つまりLTVが低くても問題になっていなかったようです。JIMOSは独立系の企業で、VCなどの資金援助を必要とせず、創業から5年で100億円の売上に達しました。そういう時代だったんですね。

これが現在はというと、広告を打っても、広告費をカバーできる売上は返ってこない状況です。大きな赤字を抱えた状態でのスタートが前提になるため、リピート売上も含めて、事業の成長を考えなければいけません。よって、CPAやCPOだけなく、リピート売上も含めたLTVを軸に広告の投資判断をする必要があるのです。

MZ:

なるほど。現状、CPAだけを評価軸にした広告運用および意思決定をされている企業も多いので、ドキッとした読者も多いかもしれません。

CPAの改善がリピート率悪化につながる場合も

田岡:

もうひとつ、CPAだけを軸にした意思決定には落とし穴があります。

初期の赤字を減らして広告の投資回収期間を短くするために、みなさん努力をして、様々な施策を打たれます。少しでもCPAやCPOを改善するために、お試し価格として価格を下げたり、無料でサンプルを配布したりと強いオファーをかけるパターンが多いですね。

しかしこの場合、ユーザーの購入動機は「お得ならちょっと試してみようかな」となるので、購入の動機が非常に弱くなり、結果リピート率は下がってしまいます。CPAが改善しても、リピート売上は悪化し、結局LTVは改善されないという状況に陥ってしまうのです。

つまり、CPAとリピート率はトレードオフの関係なので、両方を包含するLTVで計測しなければ本当の成果はわかりません。こうした理由から、私はCPAではなくLTVで投資判断をする必要があると考えています。

MZ:

では、田岡さんはどのようにLTV評価を取り入れていたのでしょうか?

田岡:

広告の投資回収という観点からLTVを実測しようとすると、1~3年かかります。実際に新しい広告施策を走らせてから、LTVがわかるまで1年も待っていては、広告投資判断が遅すぎます。そこで、私はLTVを予測することで、スピーディーな広告投資判断を実現してきました。

MZ:

LTVを予測することができるのですか?

田岡:

はい。F2転換率は広告施策によって大きく変わってくるので実測の必要がありますが、F3以降は広告施策の違いによる転換率の差が小さくなってきますので、過去の傾向から類推することができます。F1、F2の実測値とF3以降の類推値を計算式に組み込むことで、LTVを予測していました。

CPAベースの部分最適ではなく全体最適化を

MZ:

紹介いただいたLTV評価を簡単に取り入れられるのが、イルグルムと田岡さんが共同開発されたアドエビスの新機能「LTVForecast」ということですが、まずは共同開発に至った経緯をお聞かせいただけますか?

吉本:

田岡さんにはエトヴォスに在籍されていた時からアドエビスを使っていただいていました。2019年に開催したアドエビスのイベントの基調講演で、LTV評価に基づいて広告の投資判断をすることの重要性をお話しいただき、我々自身この考え方の重要性を強く実感しました。

アドエビスはCPAをベースとした広告運用最適化の部分は支援できるのですが、全体の最適化まではなかなかカバーできないことに我々としても悩みを抱えていたのです。もっと本質的に課題解決をサポートできたら、という思いが以前からありました。

田岡:

LTV評価による広告運用という概念は、実は、以前から講演やメディアで紹介してきました。概念として特段難しいものではないと思うのですが、この考え方が実践されているかというとそうではない。LTV評価を実施できる環境の構築が難しく、なかなか運用にのせられないというところに課題があったようです。

ECにおけるレコメンドも、概念として有用性がわかっていても、もし自社で作るとなると実践する会社はなかなか少なかったのではないでしょうか。そこで、私が実践してきたLTV評価ノウハウをイルグルムさんと一緒にシステム化することになりました。

最短1ヵ月でLTV予測が可能に!「LTVForecast」でできること

MZ:

では、LTVForecastの機能について詳しく教えて下さい。

吉本:

LTVForecastは、利益ベースでの広告施策の計測・評価を可能にするもので、アドエビスのオプションとしてリリースしたサービスです。「商品」「オファー」「媒体」の3つの軸を掛け合わせた粒度でLTVを予測・管理することができます。仕組みとしては、アドエビスで計測するWeb広告データのほかに、お使いのECカートシステムの受注データ、広告費や原価などの変動費を含むコストデータをアドエビスにインポートするだけで、過去の傾向値を基に各施策の収益性が予測され、LTVのシミュレーションが出てきます。

もちろん、これまで通りCPAについても実績値ベースで獲得効率を管理することは可能で、新規獲得とリピート購入で分けて管理できる点が大きな特徴です。これにより、新規獲得効率のいい施策、リピート購入に効果的な施策を把握することができます。

田岡:

私自身、商品×オファー×媒体の3軸でPDCAを回すということをずっと実践してきて、これによっていかにLTVが変わるかということを体験しています。この粒度で管理できるところは重要ですね。

吉本:

田岡さんが実際にこれで成果をあげられてきたという点は大きなポイントです。業務にしっかりフィットするように、田岡さんに細かくアドバイスをいただきながら丁寧に設計しました。

田岡:

Excelを使って力業でLTV評価を行っている会社もあると思いますが、LTVForecastでは、F3以降の売上見込みもレポーティングされます。非常に便利な機能になっており、自社でここまでできている会社はなかなかないと思います。

LTV予測による広告運用を民主化させていきたい

MZ:

LTVの数値はどのくらいのスパンで追うのがよいでしょうか?

田岡:

1ヵ月単位で売上データを更新して、LTVの数値を最新化するのがよいと思います。LTV予測を基にしたCPA目標が算出されますので、日次や週次の広告管理はそのCPAを基準に運用し、ROIの高い施策に広告費を張り替えていく。そして月次でLTV予測が更新されると、CPA目標も更新されるというサイクルです。

MZ:

LTVForecastは、経営戦略に関わるレイヤーでも、広告を運用する現場レイヤーでも活用の意義があると思います。社内での活用のアドバイスはありますか?

田岡:

まずは、広告投資のROIが絶対基準に達しているか、広告の投資回収期間はどのくらいか、を見てみましょう。広告投資のROIや投資回収期間を把握しビジネスモデルを実感することは、経営者にとっても現場にとっても重要なことです。

ROIが絶対基準に達しているかを確認できたら、次は商品×オファー×媒体の粒度で相対評価し、一番効率のいい組み合わせを見つけ、クイックに効率のいいところに広告費を移していく。株のデイトレーダーのように、LTV予測を見ながら効率のいいところに予算を投下し、全体のLTVを上げていくというイメージです。

MZ:

リリースされたばかりのアドエビスの新機能ですが、これからどのように活用を広げていきたいか、展望をお聞かせください。

吉本:

お客様の話を聞いていると、新規獲得チームやCRMチームと組織自体が機能別に分かれているところが多いようです。その場合、部分最適化に各チームが注力しても、全体として事業が成長しているのか、どこで何がボトルネックになっているのかを把握しにくくなってきます。

LTVForecastは、広告投資から収益に至るところまでを一元的に見ることができるので、組織内における共通言語のような指標となればと思っています。より本質的なところの改善を図れるようになったので、お客様との関係性をさらに深めてサポートしていきたいですね。

田岡:

最初にお話ししたように、D2CにおけるLTV評価は、ECのレコメンドエンジンと同じで必須なものだと考えています。レコメンドエンジンを搭載していないECがないように、LTVに基づく広告運用をしないD2Cも考えられない。LTVForecastを通してこの概念が広がり、LTV予測による広告運用が浸透していくことを期待しています。

※ 本記事はMarkeZine(マーケジン)様より許可を頂き転載したものです。掲載記事原文はこちらMarkeZine

田岡敬氏 × アドエビス 共同開発
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